FM三重『ウィークエンドカフェ』2021年5月8日放送

伊勢一刀彫。楠の美しい木目と大胆な彫りは素朴で温かみを感じます。
今回は玉城町で一刀彫の職人として活動する『一刀彫 結』の太田結衣さんがお客様。
優しさ溢れる素敵な作品を作っています。

勢の一刀彫は『一刀両断』という意味を持っている

『一刀彫』というと、字のごとく1本の刃物で彫っていると思われていますが、実際はいろいろな刃物の種類を使っています。
『一刀両断』の意味が伊勢では込められていまして、大胆で荒削りな造形が特徴と言われています。
なので、彩色を部分的にしかしなかったり全くしないのが伊勢の特徴となっています。
一位一刀彫や讃岐一刀彫、奈良一刀彫などいろいろあります。
それぞれに地域によって特徴があり、伊勢は神宮の宮大工さんが余技としてはじめたのが、始まりと言われています。
技の力比べではありませんが、縁起物として夷大黒などを彫ったのがきっかけだそうです。
そういった時代から伊勢には一刀彫があったといわれていますが、『伊勢一刀彫』として確立されたのは、戦後のことになります。
私が伊勢一刀彫に出会ったきっかけは、祖父がずっと伊勢にいて、神宮の干支守を毎年受けていました。
それを見て育ってきたこともあり、大学で木彫を選考して勉強したのがきっかけで、なにか生かした仕事をできるかと考えたとき、伊勢の干支のお守りを思い出し、その職人さんを探したのがきっかけです。
今の師匠である岸川行輝さんが神宮の干支守を彫っていたので、そこで初めて『伊勢一刀彫』を知ることができました。

 

年は干支の虎を作る年。これで十二支を全部作ることができる

師匠も教え方の順番があるわけではなく、その子が何をしたいかとか、どういうところまでできるかを見て、これやってみる?みたいな。
入った当時は兄弟子さんがいて、もう彫っていました。
私も同じように干支のうさぎを彫ってみる?と言われて彫ってみました。
最初から彫らせてもらいました。
干支守や神社さんのお仕事がきっかけで栄えたというのがあるので、仕事の9割は神社関係の仕事です。
毎年、翌年の干支を掘るのが恒例となっていて、今でいうと来年は寅年。
今年は寅をたくさん彫る年なんです。
実は私、今年寅を彫って、来年でまるっと干支を一周するんです。
なので、今年はまだ寅を彫っていないので、どれが一番かはわかりません。
が、どれも難しさはあると思います。
伊勢には『御神鶏』といって、鶏のモチーフもあるので、鶏は好きです。
でも自分が辰年なので、龍はカッコよく彫りたいなと思います。

 

っこりできる作品をコンセプトに作っている

私のオリジナルブランドが一『刀彫 結』。
『ほっこりできるような一刀彫を』をコンセプトにして、普段の生活に溶け込むような作品づくりをしています。
デザインするときも、例えば玄関に置いてもらったら、家を出るときに目が合うように、顔の向きを上向きにしたり…そういうことを考えながらデザインしています。
一刀彫はこれまで、飾るものが多かったですが、一刀彫を通して『伊勢一刀彫』を知ってもらいたいとの思いから、『使える一刀彫』として、キーホルダーや帯留め、ピアスなど、日常で使えるものの商品化をがんばっています。
一刀彫を始めたときは、伝統を受け継いでいくことにあまり意識はしていませんでしたが、2年3年と続けていくうち、守ることの大切さを感じるようになりました。
伊勢一刀彫の職人さん自体が少なく、県から認定されている職人は、師匠を入れて2人。
私はそのうちの一人に弟子入りして、仕事をさせていただいているのですが、私の下にも男の子が1人いるので、伊勢一刀彫をしているのは、今は4人です。
少ないですね。

 

匠のようにかっこよく彫りたい

まだまだ私の手元が覚束ないことがあります。
師匠の手捌きを見ると、ザクザクと、とても恰好良いのですが、私が作業しているところをみなさんに見ていただくと、「大丈夫かな」「怪我しないかな」と言われたりします。
熟練の技で、師匠が彫っているのは怖く見えないんですね。
私もそうやって、見ていて怖くないような、恰好良い彫りができるようになりたいと思います。
ワークショップでいつも言っていただくのが、クスノキを使っているので、「良い香りですね」と。
木屑を持って帰りたいと言われる方もいるので、一緒に詰めてあげます。
木屑は今のところゴミにしかならないのですが、そうやって持って帰ってくれる人がいたりするなら、せっかく植物の命をいただいているので、ゴミではなく何かにしたいと思っていました。
以前、アロマリッシュも作ったことがあったので、アロマウォーターにしてみなさんにお届けするなど、無駄にならないようにしたいと思っています。

誰の手にどの作品が届くかは、自分の目で見ることができないので、1つずつ彫っていくときに、ひと彫りひと彫り、どんな人の手に渡るのかを想像しながら彫っています。